「降水確率10%」 傘を持っていく? 持っていかない?
外出する予定があるとき、雨が降るかどうか気になりますよね。天気予報をチェックするときも、いちばん気になるのは降水確率ではないでしょうか。予想された降水確率や降水量を見て「明日は大きめの傘にしよう」と判断することもあると思います。
もし天気予報で降水確率が「10%」や「20%」と低めだったとき、みなさんは傘を持っていくかどうか、どう判断しますか?家を出るときに雲行きが怪しければ傘を持参しますが、少しくもっている程度の空模様なら傘を持っていくかどうか迷うところです。
今回は、このように降水確率が低いときに起きる、「傘を持っていくかどうか」という問題について考えたいと思います。前回の「おてんき豆知識① くもりの日に洗濯物を干す? 干さない?」にひきつづき、今回も、公益財団法人日本数学検定協会 学習数学研究所研究員で、気象予報士の資格をもつ中村力研究員に話を聞きました。
降水確率とは
――天気予報をチェックすると、必ず「降水確率」が示されています。感覚的に「80%は確率が高いから、雨がたくさん降るのかな」「20%は確率が低いから、雨の心配はあまりしなくてもよいのかな」などと思っていますが、そもそも「降水確率」とは何なのでしょうか?
中村:
降水確率とは、かんたんにいえば、雨が降る確率のことです。気象庁の公式サイトには次のように書かれています。
「降水確率とは『ある決まった時間帯に1ミリ以上の雨や雪が降る可能性』を示したものです。(中略)降水確率予報30%というのは、30%という予報を100回発表したとき、そのうちのおよそ30回で1ミリ以上の雨や雪が降るという意味です」
(引用:気象庁 公式サイト https://www.jma.go.jp/jma/kids/kids/faq/a5_46.html)
この説明にもあるとおり、降水確率とは「1ミリ以上の降水量の雨が降る確率」を表しています。よく、「降水確率30%と70%では、70%のほうが強く降るのですか」と尋ねられるのですが、降水確率に雨の強さはまったく関係ありません。あくまでも「100回のうち70回降るだろう」ということだけを示しています。
また、降水量というのは「降った雨がどこにも流れ去らずにそのまま溜まった場合の水の深さ※」のことで、単位は「mm(ミリメートル)」で表します。1ミリの降水量は少ないと思われるかもしれませんが、ほとんどの人が「雨が降っている」と感じられるくらいの雨量です。
(※引用:気象庁 公式サイト https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq1.html#1)
つまり降水確率とは、ほぼすべての人が「雨が降っている」と思える量の雨が降る確率というわけです。降水確率80%でもパラパラ降るような雨もあれば、降水確率30%でも強く降るような雨もあります。
降水確率と大量のデータ
――そうなんですね。降水確率が高いと、雨がたくさん降るのかと勘違いしていました。では、降水確率はどのように計算しているのでしょうか?
中村:
気象庁は、過去の気象データをたくさん保有しています。いつ、どこで、どんな気象だったのかという情報を、たくさん蓄積しているんですね。降水確率は、こういった大量のデータを用いて、統計的に処理することで算出しているんです。
おおまかに説明すると、ある場所において、いま現在と同じような状況の過去の気象データをたくさん探し出し、その後に天気がどう変化したかを調べます。たとえば、いまと同じような天気が過去に100回あって、そのうちその後の天気が雨に変化した回数が40回だったら、40%の降水確率となるわけです。例としてわかりやすく100回としましたが、実際はもっともっと多くの過去の気象データをもとに、降水確率を求めているんですよ。
また、降水確率はあくまでも目安です。「12%」や「38%」といったような細かい数値ではなく「10%」「20%」「30%」と10%ごとに区切って、大まかに表されます。大まかな目安ではあるのですが、日常生活を送るうえで役立つことも多々あると思います。たとえば、洗濯物を外に干すか干さないか、傘を持っていくかどうかなど、ぼんやりとでも近い未来を予測できれば、さまざまな判断ができるようになりますね。
こういった役立つ数値は、先ほど説明したように、過去のデータを活用することから生まれています。統計や確率を使うとき、過去と未来がつながっていくと思うと、不思議な気持ちになりますね。
「傘を持っていくかどうか」問題
――では、この降水確率を、実際にどのように生かせばよいのでしょうか。もし、降水確率が100%なら「明日は傘を持っていこう」とすぐに判断できますが、「10%」や「20%」だと悩みどころです。折りたたみの傘をバッグに入れておけばよいのかもしれませんが、バッグが小さいときや荷物を軽くしたいときは「どうしようかな」と持参するのを迷ってしまいます。
中村:
そうですね。傘を持っていくかどうかは、最終的には個人の判断によると思います。ちなみに私の場合は、「10%」でも傘を持参します。理由はかんたんで、ぬれるのが嫌いだからです。
そもそも「晴れ」や「雨」というのは、気象現象として明確に分けられるものではないのです。計算しても、物理の法則のように、はっきりと決まらないんですね。気象現象を予測する計算方法は存在しますが、計算を行うコンピュータによる誤差などもあって、正確ではありません。過去に起きた天気が、これから先の未来で同じように起きることはありませんし、そもそもまったく同じ天気はありません。局所的に同じ天気に見えても、もしかしたら、遠く離れた別の場所で発生した台風が影響しているかもしれないのです。
つまり、天気の変化を予測するための計算方法においても、その計算をするコンピュータの技術においても、「明日の○時○分から○時○分まで晴れる」と確実には言い切れないんですね。これがいまの科学技術の限界です。だから、降水確率が「10%」で雨が降っても、まったく不思議なことではありません。
このような科学技術の限界をふまえて、もしどうしても雨にぬれたくないのであれば、小さくて軽い傘をバッグに入れておくのが賢明かもしれませんね。
――中村研究員、今回も貴重なお話をありがとうございました!
今回は、天気予報の「降水確率」について話をしていただきました。降水確率の高さと雨の強さは無関係であることに驚きましたね。降水確率が10%でもぬれるのが苦手な方は、傘を持っていくほうがよさそうですね! 次回もお楽しみに!
宇津木 聡史(うつぎ さとし)
文系サイエンスライター。科学教育誌『Science Window』(国立研究開発法人科学技術振興機構発行)の副編集長などを経て、現在は単行本の執筆、出版社が発行する雑誌の記事や単行本の編集、大学や研究機関の広報物や報告書の制作などに携わっています。著書に、『似ているけれどちがう生きもの図鑑』(文一総合出版)、『おばあちゃんが認知症になっちゃった! 』(星の環会)、『教えて!科学本』(共著、洋泉社)など。