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お店でよく見る「1個買うと、もう1個無料」のしくみとは?

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  • 販売戦略
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春になると3月は卒業シーズン、5月はゴールデンウィークなどで旅行に行くことも多いかと思います。とくに海外などで買い物をするとき、「1buy1(ワン・バイ・ワン)」という表記を見ることがあります。1buy1とは、商品を1個買うともう1個無料でもらえるというサービスです。商品を1個買ったらもう1個無料ということは、2個買うと半額になるということですから、圧倒的にお得ですよね。でも、なぜ日本でよく見られるような「50%OFF」という表記にしないのでしょうか。

今回は「1buy1」のしくみについて一緒に考えていきましょう。


損益の基本「利益」とは?

まず損益の基本について学習しましょう。お店の人は、商品を売る前に、部品や原材料などを仕入れる必要があります。その仕入れの金額が「原価」です。そして、できあがった商品に値段をつけて販売します。このときの金額が「売値」です。このように品物には、「原価」と「売値」という2種類の金額があります。

では、「利益」はどのように計算するかというと、利益=売値ー原価 という式で求めることができます。

たとえば、1個分100円の原価で10個分仕入れて、1個150円の売値で販売して8個売れると、(150×8)-(100×10)=200(円)の利益となります。しかし、このままだと2個あまってしまうので、その分が損になってしまいますね。そこで、あまった150円の商品を2割引きの120円にして売り切ったとしましょう。そうすると利益は、(150×8+120×2)-(100×10)=440(円)となります。

買う側からしたら「2割引きでお得!」と思っても、売る側からすると売れずに在庫を抱えたり廃棄したりするよりは、割引きしてでも売ってしまったほうが利益が出ることがわかりますね。


「1buy1」は「半額」と同じ?

では「1buy1」について考えていきましょう。下の写真は筆者が韓国に旅行に行ったときに撮影したものです。韓国では至るところで「1+1」という表記が見られます。先ほどのように、1buy1は、1個買うともう1個無料で同じ商品を手に入れることができるというサービスです。日本でもコンビニエンスストアなどで、1個買うともう1個おまけというPOP(販売意欲促進広告)などを見たことがあるかもしれません。


一方で、1個の値段で2個の商品を手に入れることができるなら、半額で買えることと同じ意味ではないかと思ったかもしれません。

たとえば、1個100円の商品が1buy1だと100円で2個手に入れることができます。2個で100円ですから1個あたりの金額は、100÷2=50(円)となっていますね。つまり、1個あたりの値段は、1buy1と半額で同じになっています。

ではなぜ、お店は1buy1を実施するのでしょうか。売値や利益などの状況にどのような違いがあるのか、具体的な例で見てみましょう。


ピザ屋の1buy1戦略

それでは、ピザ屋の1buy1戦略を例に見ていきましょう。


あるピザ屋では1日300枚のピザを焼きます。売値は1枚2,000円としますが、100枚売れたところで、以下のような売り方にすることを検討しています。

売り方A:ピザの値段を半額で販売

売り方B:1枚ピザを注文すると、もう1枚ピザが無料になる1buy1で販売

ただし、セールをしているので、販売1件あたり注文は1枚までとします。

売り方Aは販売1件につき1枚の販売ですが、売り方Bは販売1件につき2枚を販売することになります。

売り方AおよびBの売上や利益を、下の表のようにまとめました。


売り方A:半額


金額枚数件数値段×枚数
① 原価
500円300枚150,000円
② 1~100枚(通常の売値)
2,000円100枚100件200,000円
③ 101~300枚(半額)
1,000円200枚200件200,000円
利益(②+③-①)
250,000円

300枚のうち200枚を半額で販売したとき、売上は400,000円、利益は250,000円となります。すべてのピザを売るためには300件の件数が必要です。


売り方B:1buy1


金額枚数件数値段×枚数
① 原価
500円300枚150,000円
② 1~100枚(通常の売値)
2,000円100枚100件200,000円
③ 101~300枚(1buy1)
1,000円200枚100件200,000円
利益(②+③-①) 
250,000円

こちらも売上は400,000円、利益は250,000円となります。すべてのピザを売るためには200件の件数が必要です。

売り方Aの「半額」も売り方Bの「1buy1」も、売上と利益は同じですね。なぜお店は1buy1を実施するのでしょうか。表だけではわかりにくいので、グラフで表してみます。



横軸が件数、縦軸が売上額です。このグラフからどのようなことがわかるでしょうか。

全部売れたとき、売上も利益も同じですが、売り切るまでの件数が異なっています。つまり同じ売上や利益でも、「半額」のほうは件数が多いのに対して、「1buy1」のほうは件数が少なくて済んでいますね。

売り切るまでの件数が少ないことは、お店にとって、売り切るまでの時間を短くできたり、人件費を少なくできたり、短期間での広告効果を得られたりとさまざまなメリットが考えられます。このあたりに、お店が1buy1を実施する理由がありそうですね。

お客さんの喜びとお店のメリット

お客さんにとっては、1個買うともれなくもう1個もらえることは、実質的に元(もと)の半額の値段で買えることなのでうれしいですよね。一方でお店にとっても、半額で売るよりも件数が少なく、売上や利益以外の面でメリットがあることがわかりました。

実はこのような販売戦略は、「1buy1」以外にもたくさんあります。

「3点で1,000円」「商品Aを買うと商品Bがもらえる」「今だけご飯大盛り無料」「3,000円以上購入すると送料無料」などは、どれも買う側にとってお得なサービスですが、売る側にとっても元の値段を変更せずに売れやすくなるというメリットがあるくふうなんですね。

そういった企業の目線から見たサービスを考えてみるのもおもしろいかもしれませんね。


/media/古山 竜司(ふるやま りゅうじ)

古山 竜司

大阪府生まれ。九州大学大学院卒業(芸術工学)。数学検定1級(数理技能検定)、英語検定準1級、数学コーチャープロA級ライセンス取得、ビジネス数学講師。「数学・算数を通じて人々を幸せにする」を使命に大阪府高槻市にマスラボを開業。またYouTuberとしても5,000本の動画を配信し、チャンネル登録者も1万人達成。著書に「これだけ微分積分」「これだけ微分方程式」(いずれも秀和システム)など。

算数・数学塾「マスラボ」
サイトURL:http://furuyaman.com/

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