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アクチュアリーからみた家庭でのリスク管理や保険・金融教育

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私たちが生活するなかでは、予期せぬできごとが起こることがあります。そうしたリスクに向き合い備えることは、とても大切です。自分のことだけではなく、家族や子どもたちにリスク管理や保険の大切さを伝え、家族の安全を守っていくためにどのようなことができるのでしょうか。

今回も、アクチュアリーの視点からみた家庭でのリスク管理や保険・金融教育について、前回の「保険のしくみを作るアクチュアリーの仕事と数学の関わり」にひきつづき、ソニー生命保険株式会社商品数理部でアクチュアリーとして活躍されている松本綾子さんに話を伺いました。

家族の将来に起こるリスク 

ーーまず、家族の将来に起こるリスクとして、どのようなことが考えられますか。

松本

それは本当に多種多様なものがあると思います。まず代表的なものが「死亡」です。とくに、大黒柱の方が亡くなった場合、経済的に不安定となってしまうことは、大きなリスクかと思います。その他のリスクとしては、やはり「病気」でしょうか。病気になることによって、入院や手術で多額のお金がかかったり、働けなくなって収入がなくなったりすることもあります。

あと、日本人はだんだんと長寿化の傾向にありますが、長生きすることも、それはそれでリスクと考えています。長生きすることによって、生活費が長期にわたって必要になったり、高齢になると病気になりやすくなったり、介護や認知症のリスクが高まったりといったこともあります。

私が働いている生命保険会社がとらえているリスクは、おもにこのようなものですが、損害保険会社では、自動車事故のリスクなどあらゆる事故のリスクがあります。

ーー実に、さまざまなリスクがありますね。このようなリスクがあるなかで、アクチュアリーの方からみた保険の選び方がありましたら、教えていただけますか。

松本

本当にいろいろな保険があるので、しっかりと取捨選択していくことが必要かと思います。どのような保険が必要なのかは、家庭や個人によって違うものです。家庭がある場合は、家族でどういったリスクや心配ごとがあるかを話し合う機会をもつことが、まずは大切だと思います。たとえば、一家の大黒柱が死亡したときに困るということであれば、死亡保険が選択肢になります。また、病気が心配ということでしたら、医療保険という選択になります。

いろいろな保険会社の保険商品を比べてみることも大事です。各社で保障内容も違いますので、自分や家族がどのくらい保障を必要としているかによって、選ぶ保険も変わってくるでしょう。

ーーなるほど。目的を明確にしたうえで保険を選んでいくということですね。

松本

そうですね。たとえば誰が死亡しても病気になっても、貯金ですべてをまかなえるので大丈夫ということであれば、保険は必要ないと思いますが、なかなかそうはいかないですよね。そういったときに、保険が選択肢になってくるのだと思います。

ーーもしものときのための保険なんですね。それでは、保険を見直さなければいけないのはどういうときでしょうか。

松本

たとえば、若いころに医療保険に入ったまま、その保険を何十年も見直さずにいるという方がいらっしゃいます。その保険の支払要件が、特定の医療にしか支払われないというものですと、加入後からこれまでに新しく開発した医療技術に関しては、保険金が支払われないということが起こり得ます。がんなどの場合は、診療や治療の方法など、新しいものがどんどん出てきていますので、それらに対応できていない保険になってしまっているかもしれません。その場合は、最新の医療保険やがん保険へ入り直すなどの見直しを考えたほうが良いと思います。

一方で、若い方が保険に入ると保険料は安く済みますが、高齢になってから保険に入ると保険料が高額になってしまう場合もあり、保障内容と保険料のバランスも考慮しないといけないという面があります。

家族とともに保険を考えるコツ

ーー自分の子どもに、保険について身近に感じてもらうために何かできることはありますか。

松本

「民間の保険会社には、こういう保険があるよ」と子どもに言っても、なじみが薄いのでなかなか伝わらないと思います。でも、日本には身近な制度に「国民皆保険制度」があります。たとえば、病院で医療を受けるとき、この国民皆保険制度によって、実際にかかった医療費より自己負担が少なくなります。このような身近な保険だと、子どもでも理解しやすいと思います。

損害保険の領域ですが、子ども向けの保険には、個人賠償責任保険や自転車の事故に備える自転車保険など、いろいろなものがあります。そのため、「自転車保険は、自転車で事故にあったとき、こういった保障をしてくれる保険だよ」というように、子どもが身近に感じられる内容から話すと理解しやすいかと思います。国民皆保険のことや個人賠償責任保険、事故の保険のことが理解できる年齢になったら、他の保険の話をしてみても良いと思います。

ーー松本さんは、お子さんが成長するにつれて、保険などの話をしてみようという考えはありますか。

松本

まだ1歳なので、具体的なプランは立てていません。私自身も、学生時代は保険というものをくわしく知らなくて、保険会社に入って初めて知りましたし、日本は海外に比べて金融教育に遅れがみられますよね。知ってみると、自分の資産管理のことなどが学べるので、自分の子どもにも金融教育はしていきたいです。

ーー金融教育については、どのようなことから始めたら良いでしょうか。

松本

いきなり金融教育として保険の話をするのは唐突な感じがしますが、資産運用は、実際に少額で始めさせてみるなど、子どものうちに体験してみても良いかと思っています。諸外国だと、それによって老後の資産を増やしているという話も聞きますし、できないよりはできたほうが良いのではないかと思います。

ーー高等学校で金融教育が義務化されましたね。

松本

基本的に私は、金融教育には肯定的なので進めていってほしいと思っています。ただ、資産運用はお金が増えるメリット以外にも、お金が減ってしまうリスクがあるので、その点もしっかりと教えていってもらいたいですね。大人になって大きな額で失敗してしまうより、子どものときに練習で失敗していたほうが良いと思います。

家族が未来を安心して過ごすために

ーー家族の未来を、少しでも安心して過ごすためのアドバイスがあればお願いします。

松本

先ほど、死亡や病気という話をしましたが、起こるときは本当に突然です。そのため、そのときがきても慌てないように、こういうことが起こった場合はどうするかなど、ふだんから家族で話し合っておいたほうが良いと思います。その時点で、お金が足りなくなるとわかっている場合があれば、保険を活用することも有効かと思います。

そして、家庭をとりまく環境はどんどん変わっていくため、一度話し合ったら大丈夫と安心しないことも大切でしょう。たとえば、子どもの教育費がこれから多くかかるとか、年金生活になるから給料の心配をしなくて済むといったことが挙げられます。そういった環境の変化があるタイミングでもう一度話し合い、必要な保険を見直すことが重要になってきます。

ーーなるほど。つねに話し合いをすることが大切なんですね。

松本

どうしてもネガティブな話し合いになってしまうので、たとえば、「家族で旅行するためにある程度貯金をしておこうね」「旅行でこういうところに行きたいから貯金を少しでも減らさないようにしよう」「じゃあ、こういうところには保険をかけることにしよう」など、楽しい話題も取り混ぜながら話し合っていけたら良いと思います。

ーーところで、松本さんは、もしアクチュアリーがいなかったらどうなると思いますか。

松本

アクチュアリーがいなかったら、少なくとも保険という制度は立ち行かなくなってしまうと思います。ドラマの悲劇でよく描かれますが、たとえば、一家の大黒柱のお父さんが亡くなってしまって経済的に苦労するとか、そういったことが家庭で起こり得るのかなと思います。

ーーアクチュアリーの存在は大きいですね。最近AI(人工知能)が話題になっていますが、アクチュアリーの仕事のなかで、実際にAIを使うことはありますか。

松本

まだあまり実用化はしていないのですが、ChatGPTのような生成AIは、何かに使えるのではという議論が徐々に出てきているところです。AIなど新しい技術を使えば、もっと良い商品ができるでしょうし、人間も作業以外の物事を考えることに時間を割けるでしょう。AIを活用していけたらもっと良い未来があるんじゃないかと思っています。

ーー松本さんの今後の展望などありましたら、教えてください。

松本

私自身、半年ほど前に育児休業から復帰しましたので、今は仕事と育児の両立というのが大きなテーマです。まずは、このアクチュアリーの仕事を無事に続けていくということが、第一段階の自分の展望です。もっと立派な展望があれば良いのですが、現状ではなかなかそういったところまで考えが及ばないというのが素直なところです。

ーー仕事と育児の両立はたいへんですが、応援しています。現在、アクチュアリーをめざしている方にメッセージをお願いします。

松本

アクチュアリー試験は、はじめは難しいかもしれませんが、勉強を積み重ねればだんだんと理解できるようになってきます。試験も長期間続くものなので、本当にたいへんだと思うのですが、資格を取って得することはあっても損をすることはないので、どうか諦めないでがんばってほしいです。

ーーお話を伺って、未来を安心して過ごすために、保険は本当に大切なものだと感じました。

松本

保険はいろいろな商品・給付があり、難しいなと考える方が多いかもしれません。家族で話し合っていくことはもちろん大切なのですが、難しいと感じる場合は、保険会社の営業や保険代理店の担当者などに聞いてもらえれば、アドバイスをしてくれます。そういったところも利用しながら知識を深めていき、必要なリスクに関しては保険に加入していただくと、将来の安心が得られるかと思います。ぜひ家族の安心のために、保険を活用していただくことをおすすめします。

ーー最後に、松本さんにとって保険とはどういうものでしょうか。

松本

やはり将来のリスクに対する備えとなるものですので、一言で言うと、安心とか安全とか、そういったところだと思います。

ーー松本さん、今回も貴重なお話をありがとうございました!

今回は、アクチュアリーの松本綾子さんに、アクチュアリーの視点から家庭でのリスク管理や保険・金融教育について話を伺いました。保険は、私たちに安心を与えてくれるもので、それを支えてくれているのがアクチュアリーのみなさんであり、数学であることを強く感じました。

ぜひみなさんも、将来のさまざまなリスクを家族で考える機会を一度つくってみてはいかがでしょうか。そして、未来を安心して過ごすためにも、日ごろから備えていくことをおすすめします。



篠崎 菜穂子

フリーアナウンサー/数学コミュニケーター/数学シニアインストラクター。東京都生まれ。日本大学理工学部数学科卒業。横浜国立大学大学院先進実践学環社会データサイエンス修士課程修了(学術)。中学高校数学教員免許、幼児さんすうインストラクター、算数シニアインストラクターなど、多数の資格を取得。数学関係のアナウンサーの仕事のほか、数学講座やワークショップ、執筆など幅広く活動している。著書に『はたらく数学 25 の「仕事」でわかる、数学の本当の使われ方』(日本実業出版社)ほか。

篠崎菜穂子の数学情報サイト 「How to enjoy math」
サイトURL:https://www.enjoy-math.com/

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