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くもりの日に洗濯物を干す? 干さない?

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雨の多い時季になってきました。次の日の天気が気になる今日このごろ、天気予報をチェックする回数が多くなりますよね。貴重な晴れなら洗濯をしたい。雨が降るなら傘を持っていこう。明日という未来の行動を決めるとき、天気予報はとても役立ちます。

実は、この天気予報にも算数・数学がいろいろと潜んでいます。今回から3回に分けて、天気予報のなかの数学を紹介していきます。1回めは、洗濯を視点にして天気と数学の関係を探ってみたいと思います。公益財団法人日本数学検定協会 学習数学研究所研究員で、気象予報士の資格をもつ中村力研究員に話を聞きました。


洗濯指数を参考にしよう

――天気予報で「洗濯指数」という指標を見たことがあります。これは洗濯物の乾きやすさを数字で示したものですが、いったいどのように算出しているのでしょうか?

洗濯指数(例)

中村:

洗濯指数は民間の気象情報会社などが独自に出しているものです。洗濯指数の算出方法については各社のノウハウに関わるところなので、一般に公開されてはいないようです。おそらく、湿度や気温、風速、日射量、降水確率などのデータを用いていると思われます。それらを独自の基準で数学的に処理することで、指数を算出しているのでしょう。

この洗濯指数は、気象に関わる情報を一般の方にわかりやすく伝えるためのくふうの1つです。湿度などの数値のみを示すよりも、洗濯物の乾きやすさとして表したほうが、多くの方に気象情報をわかりやすくお届けできますからね。

湿度が低ければ乾きやすい

――洗濯指数はとてもわかりやすいですが、さらに知っておくと便利な情報や要素はあるのでしょうか。先ほど、「湿度」「気温」「日射量」「降水確率」という用語が出てきましたね。くもりの日に屋外で濡れている洗濯物を乾かすとすると、とくに「湿度」が重要そうな気がします。

中村:

そうですね。洗濯物を干したいときは、天気予報で「湿度」のところをよく見てください。湿度は、とても重要な気象要素の1つです。定義は2つあって、天気予報などで使われる「相対湿度」と、それとは別に「絶対湿度」というものもあります。ここでは「相対湿度」について説明しますね。

まず、確認しておきたい自然現象があります。たとえば、コップやボウルなどに水を入れて屋外などに放置すると、水の量がだんだんと減っていきます。これは、水が蒸発しているからです。空気が乾いていればいるほど、水はどんどん蒸発します。しかし、密閉した狭い空間に入れると、ある程度のところで蒸発が止まってしまうんです。

水が蒸発するというのは、空気の中に水が気体として取り込まれるからです。ただ、空気が含むことができる水蒸気の量は限られていて、これ以上は受け入れられないという量に達すると、容器の中の水がそれ以上蒸発できなくなります。

空気が含むことのできる水蒸気の量のことを「飽和水蒸気量」と呼びます。相対湿度というのは、飽和水蒸気量に対して含まれている水蒸気の量の割合なんですね。相対的に示すために、割合や百分率の考え方を用いているわけです。

相対湿度は、次のような式で表すことができます。


日常で湿度といえば、相対湿度のことです。相対湿度100%というのは、空気が取り込める水蒸気の量が飽和している状態です。それ以上はもう水蒸気を含むことができません。だから、コップの中の水は蒸発できなくなるし、洗濯物も乾きません。一方、相対湿度が50%であれば、飽和水蒸気量に対して半分の量しか水蒸気が空気に含まれていないことになります。だから、コップの中の水や洗濯物に含まれる水が、空気に移動することができます。つまり、乾きやすいということです。


湿度が高めでも、風強め、気温高めなら期待できる

――洗濯物についた水が乾くためには、周囲の空気の湿度が低いことが重要なんですね。しかし、梅雨の時期になると、湿度が80%や90%という日が多くなります。それでも洗濯をしたいときがあると思いますが、洗濯物が比較的乾きやすい気象条件はほかに何かありますか?

中村:

風がよく吹いていると、洗濯物が乾くのを助けてくれます。洗濯物のまわりには水蒸気がたくさんあって、相対湿度が100%に近い状態になっています。その水蒸気が風で次々に運ばれて、たとえば常に乾燥した空気が洗濯物の周りをとりまいていれば、比較的乾きやすくなります。

また、気温が高いことも重要です。飽和水蒸気量は、気温が高くなると増えます。それも直線的に増加するのではなくて、気温が高くなればなるほどグンと増えるのです。気温が高いときと低いときでは、高いときのほうが洗濯物は乾きやすくなります。


相対湿度を表す上の式において、気温が高いと分母の飽和水蒸気量が大きくなるので、相対湿度が低くなります。つまり、空気が乾燥するのです。反対に気温が低くなると、分母の飽和水蒸気量が小さくなり、相対湿度が高くなって100%になると結露を起こすことがあります。

梅雨の時季で相対湿度が高くても、風速が強めで、気温が高めであれば、洗濯を強行できるかもしれませんね。天気予報では洗濯指数だけではなく、このような要素もぜひチェックしてみてください。大事なポイントは「割合」という考え方です。飽和水蒸気量に対する水蒸気の量の割合(相対湿度)を調べて、あとどのくらいの量の水蒸気を取り込めるかをイメージしましょう。

部屋干しではなるべく同じ状況をつくろう

――気象情報を表す際に数学的な表現が使われていて、それを日常で活用する際も数学的な考え方を働かせることが重要なんですね。ここまで、屋外に干す状況で話をしていただきましたが、雨の日などは部屋干しするしかないですよね。そのときにできるくふうなどはありますか?

中村:

そうですね。たとえば、除湿機を使って湿度を低くして、扇風機で風を送り、エアコンなどで室温を高くすれば、洗濯物は乾きやすいでしょう。また、屋外の湿度が比較的低いなら、ときどき換気して室内の湿った空気を追い出すと、より効果的かと思います。

温度と湿度がわかる温湿度計もあるので、それを買って設置することをおすすめします。洗濯物が乾きやすい状況を把握することが大切です。状況を数量や関係でとらえることができると、細かい変化や違いに気づくことができます。その気づきから「くもりだけど洗濯ができるかも」と適切な判断や行動ができるとよいですね。


――中村研究員、貴重なお話をありがとうございました!

今回は、気象予報士の資格をもつ中村研究員に、身近な洗濯に関わる数学の話をしていただきました。天気予報にはいろいろな数値やしくみが隠れていることがわかりましたね。その意味するところを知ると、きっと日々の暮らしが快適になるんじゃないでしょうか。次回もお楽しみに!


/media/宇津木 聡史(うつぎ さとし)

宇津木 聡史(うつぎ さとし)

文系サイエンスライター。科学教育誌『Science Window』(国立研究開発法人科学技術振興機構発行)の副編集長などを経て、現在は単行本の執筆、出版社が発行する雑誌の記事や単行本の編集、大学や研究機関の広報物や報告書の制作などに携わっています。著書に、『似ているけれどちがう生きもの図鑑』(文一総合出版)、『おばあちゃんが認知症になっちゃった! 』(星の環会)、『教えて!科学本』(共著、洋泉社)など。