暮らしの工夫を数学で。節約のウソ?ホント?を解説!
毎日の暮らしで必要な「お金」。子どもの将来のためにも節約をして貯金を!と思い、いろいろとインターネットで調べるものの、あまり役に立つ情報がなかった……。こんな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
インターネットは玉石混交。良い情報もあれば、悪い情報もさまざまです。
そこで、今回は数学の専門家の先生が、身のまわりにあふれている節約術を数学的視点から考察。節約のウソ?ホント?を解説します!
暮らしの節約術、ウソ・ホント?
本日お話を伺うのは、公益財団法人日本数学検定協会 学習数学研究所研究員の中村 力先生です。中村先生には節約にまつわるさまざまな疑問の真相を明らかにしていただこうと思います!
中村:
はい、よろしくお願いします。
本日、中村先生に解説していただくのは以下の3つの疑問。本当に役に立つ節約術とは一体、どれになるのでしょうか?
疑問1. 1週間分のまとめ買いをするとお得ってウソ? ホント?
疑問2. 特売品とお徳用パック、どちらがお得?
疑問3. スーパーマーケットのポイント、どこのを使うのが一番お得?
疑問1. 1週間分のまとめ買いをするとお得ってウソ? ホント?
──ではさっそく、取材を始めたいと思います。まずは、この疑問。1週間分のまとめ買いをするとお得になるってホントでしょうか?
中村:
そうですね、まとめ買いや大量買いはディスカウントにつながりますから、一般論として金額の面で安くなるのは間違いないと思います。つまり、ホントでしょう。
ただ、そのうえで、まとめ買いをする際は「消費期限」の問題を考える必要があります。たとえば、ジャガイモを10個買って5個しか食べられなかった場合を考えてみましょう。このとき1個80円のジャガイモなら支払い額は10個で800円ですね。しかし、実際は5個しか食べられなかったとなれば、実質的に1個あたりの値段は160円となり、購入時の倍の価格を支払っていることになります。
もし、最初から5個だけを買えば80円×5で400円。なんと支払い額より400円も安く済むのです。
要するに、1週間のうちで月曜日は何を食べて、火曜日は何を食べて……とあらかじめ献立を考えておくことで、1週間で必要な分だけ買うことができ、余計な出費が抑えられます。
──たとえば、どんな食品がまとめ買いに適していると思いますか?
中村:
インスタント食品や缶詰、冷凍食品は消費期限が長いので、まとめ買いに適していると思います。ただ、お菓子やビールなどの嗜好品は要注意ですね。目の前にあるとパクパク食べちゃったり飲んじゃったりと計画どおりに進まないこともありますからね。
節約術のウソ?ホント?まとめ
→まとめ買いは節約につながるってホント! ただし、食品ロスの観点から食べ切れる量だけを買わないと思わぬ出費につながるかもしれません。
疑問2. 特売品とお徳用パック、どちらがお得?
──なるほど。では、続いて2つめの疑問。スーパーマーケットへ行ってみると「お徳用パック」や「特売品」といった商品が目につくことがあります。実際に、これらの商品はどちらがお得なのでしょうか?
中村:
そうですね、これについては一概にどちらがお得とは言えないと思います。
たとえば、国産鶏もも肉が普段100g96円で売られているとして、それが特売品で金額が安くなって100g60円で売られていたり、お徳用パックで値段はそのままで内容量が150gになっていたりと、さまざまな商品がありますよね。
一見すると、お徳用パックが同じ金額で量が多く、安い!と思って買ってしまいがちですが……。
──ですが……?
100gあたりの値段で見ると、特売品が100g60円で、お徳用パックは100g64円。差額は4円と実はそこまで大きな差ではありません。
先ほどのまとめ買いと同様に、安いからたくさん買っておこう!という買い方は、食品ロスにつながってしまいます。もし、お徳用パックを買ったものの、食べ切れずに捨ててしまったら、その分の金額を損していますからね。
ですので、やはり予算だとか、献立だとか、そういった計画に沿って購入するのが結局のところ一番の節約につながるのではないかと考えています。
──その計画をどのように行っていくと良いでしょうか?
中村:
数学的にいえば「予測」ですね。あるものが毎日コンスタントに減る場合、これは「1次関数」の考え方ですよね。もっと正確にいえば「線形回帰」です。最初にあったものがある時間に何個になって、そのあとに何個になってと……。
日が経つにつれてだんだんと減っていく。ろうそくと同じで時間とともに減っていくロウが燃え尽きるのはいつかを考える。このように、あるとき買った食材をいつ食べ切れるかをあらかじめざっくりとでも考えておくことが大切だと思います。
節約術のウソ?ホント?まとめ
→特売品もお徳用パックもどちらも実際はあまり変わらない。購入する際は100gあたりの価格を比べて、献立の計画に沿って食べ切る時期を計算してから判断しましょう!
疑問3. スーパーマーケットのポイント、どこのを使うのが一番お得?
──続いては、スーパーマーケットのポイントカードに関する疑問です。各社さまざまなポイントカードを発行していて、実際にどれを使うのが一番お得なの?と悩んでしまうのですが……。
中村:
そうですね。単純に、ポイントカードの「還元率」と「支払い額」をかければ受け取れるポイントは決まります。たとえば、還元率1%のポイントカードで3,000円支払う場合、ポイントは30ポイント貯まるので、還元率が高いポイントカードで買い物を多くすれば良いという結論になります。
しかし、店舗へ行くには移動時間もかかるし、場合によっては交通費がかかる場合もあります。たとえば、Aという店舗はポイント還元率0.5%で自宅から徒歩5分のところにあるとします。一方、Bという店舗はポイント還元率が1%だけど自宅から徒歩15分のところにあるとします。A、Bそれぞれ往復した場合、単純にAとBでは移動時間に20分の差が生まれますよね。この手間がどうなのかなあと。
──手間も含めて計算する必要があるということでしょうか?
そうです。還元率だけでなく「使用頻度」もあわせて考える必要があります。店舗までの移動にかかる時間や費用、そうした手間暇を加味したうえで、トータルコストはどれくらいなのかを考えないと実は決められないのです。たとえばですが、Bへ週に3回通っていたら1週間で1時間、Aへ通う場合より多く移動に費やしていることになりますよね? もしこの時間を仕事にあてていたら、時給分プラスになる場合もあるんです。
──では、どのようにしてポイントカードを選んだら良いのでしょうか?
中村:
ポイントを最大にするということであれば「還元率×使用頻度」で考えましょう。使用頻度は店舗への移動時間や交通費との関連もあるので、一概に多ければ良いというわけではありませんが。
要は、高い還元率の店舗へコストをかけずにどれくらい通えるかという最適化の考え方が重要になるんです。
──ポイントカードから、なんだかすごく複雑な話に……。
中村:
たとえば、普通の企業でも売上を最大にしたい、だけどコストは最小にしたいと考えてビジネスをしますが、ポイントカードもこれと同じ考え方なんです。決められた予算のなかでどれだけ満足した買い物できるかどうか。これを感覚でやっている方も多いと思いますが、実はとても高度な考え方なんです。
厳密に考えることは現実的ではないものの、ポイントがどれくらい還元されるのか、使用頻度はどうなのかを考えてみると良いかもしれませんね。
──主婦のみなさんは毎日、すごく難しいことをされているんですね……!
中村:
そうですね。ただ、あまりきっちりやってしまうと買い物が面倒になってしまうこともあると思うので、あるときには衝動買いも大切だと思います。買い物はやはり楽しくないといけませんね(笑)
数学は答えがきっちり正確に求められますが、それを節約の場面においてどこまできっちりやるかはその人しだいでしょうね。
節約術のウソ?ホント?まとめ
→ポイントカードは「還元率」と「使用頻度」で考えましょう! 無理して遠くの店舗へ通うのは、かえってマイナスかも?
中村先生と考える、そもそも「節約」ってどういうこと?
とくに考慮すべきは家事にかかる時間
中村:
主婦のみなさんは一応無償で家事をされているでしょうけど、その動作1つひとつにコストが発生しているんですね。そのコストを無視してただ節約、節約と奔走するのはどうなんだろうと。
むしろ、本当の節約は「見えないコスト」を加味することが重要だと思います。材料費だけを見れば安いほうがもちろん良いわけですが、買ったものを調理する時間や体力、手間暇を考えたら意外と高くつくこともあります。
人・物・金がどれくらい必要なのかを考え、トータルでどれくらいのコストが発生していて、節約によってそれがどう変化するのか。この辺りを加味して考える必要があると思います。節約は、値段だけで考えられないのかもしれないですね。
数学力を鍛えるには暗算
──節約をするにあたって、ふだんからどんなことに気をつけていけば良いでしょうか?
中村:
買い物のとき、たまに概数(おおよその数)を暗算で計算してみると良いのではと思います。買い物かごの合計金額がざっくりどれくらいなのか。頭のなかで計算した金額と実際の支払い額で10%程度の誤差であれば、かなり暗算力はあると思います。買い物中にいちいちノートやアプリを使って計算して片手がふさがることもないですし。
ただ、節約して浮いたお金をたまにはご自分へのご褒美として使うといったことも節約をし続けるなかで必要なことだと思いますね。
数学は身のまわりにあふれている!
中村:
今日の節約についてもそうですが、数学は私たちの生活に密接に関係しています。たとえばローンの返済にも数学の考え方が応用されていますし、生命保険にも数学は必須です。年金も株価の変動も、身のまわりのさまざまな分野に数学は応用されているんですよ。
小学校の教科書を開けば、速さとか人口密度とか、単位量あたりの大きさとか百分率とか、日常生活はもちろん、ビジネスに関連する内容も学べます。そういう意味では小学校の算数は、無駄がないんです。だからこそ、小学生から算数が嫌いになってしまうとちょっと寂しいので、日常生活にも算数を取り入れてほしいですね。
遠くにあるようで、意外と身のまわりにあふれている「数学」。節約も、まずはふだんの生活で実践できることから気軽に始めてみてはいかがでしょうか。
ひとふり編集部
ひとふり編集部は算数・数学を使った日々の暮らしに役立つ話を提供します!