【最新の教育トレンド】数検を解いた主婦の疑問を、教育専門家に聞いてみた!
今回は数学をより身近に感じていただくために、主婦の方が数学検定の問題にチャレンジする様子をお届け。問題を解くなかで生まれた「今の中学生の数学ってこんなに難しいの?」「数学を学ぶ意味ってなんだろう」という素朴な疑問に、数学教育の専門家にお答えいただきます。
数学を学ぶ子どもとの対話のきっかけに、学び直しの第一歩に、ぜひ参考にしてみてください!
数学検定のおさらい
数学検定の問題にチャレンジする前に、まずは検定の概要をおさらいしておきましょう。
各階級の概要と出題内容
計算や作図、表現、測定など算数・数学の実用的な技能を測る「実用数学技能検定」。数学領域である1級から5級までを「数学検定」、算数領域である6級から11級、かず・かたち検定までを「算数検定」といいます。
数学検定の各階級では、次の「目安となる学年」の内容を中心に出題されます。
1級 | 準1級 | 2級 | 準2級 | 3級 | 4級 | 5級 | |
目安となる学年 | 大学・一般 | 高校3年程度 | 高校2年程度 | 高校1年程度 | 中学校3年程度 | 中学校2年程度 | 中学校1年程度 |
どなたでも、どの階級からでも受検ができるため、「子どもの学校でのがんばりを知るために、同じレベルにチャレンジ」「学び直しに、まずは5級から」などご自分の思いとレベル感にあわせて取り組んでいただけます。
実際に数学検定を解いてみたら……?
それでは、今回数学検定3級に挑戦していただく方をご紹介します。
※プライバシーの関係で、お顔・お名前を隠してご参加いただきます。
【体験者】Aさん(仮名)
Aさんは、東京都内に在住の40代の女性。中学生の娘さんが2人と数学好きの息子さんが1人おられる主婦の方です。久しぶりの数学の問題に、なんだか緊張した面持ちです。
Aさんコメント:
中学の数学はまったく覚えていないので、解けないかもしれません……。
とはいえ、がんばって解いてみます!
さっそく、数学検定に挑戦! まずは1次から
数学検定3級の1次は、おもに計算技能を測る問題です。中学校1年生の「正負の数」や中学校2年生の「連立方程式」、そして中学校3年生の「平方根」など、幅広く出題されます。
(※今回使用した問題は、実用数学技能検定公式サイトで閲覧・ダウンロードできます。ご興味のある方は、こちら)
さっそく数検の問題に挑戦! スタートの合図と同時にペンを持ち、解き始めるAさん。順調な滑り出しです。しかし……?
解答中のAさんの声:
(連立方程式の問題を解きながら)
あれ。この問題ってどうやって解くんだっけ?
(円周角の定理の問題を解きながら)
これ、中学生のころに解いた気がしますね……。
たしか、公式があったはず……。
……と、話しながらどんどん問題を解いていくAさん。時折、解答する手を休め、うんうんと考え込んでいます。
解答していくうちに、検定時間である50分が終了。次は2次に挑戦します。
続いて、数理技能を測る2次へ挑戦!
1次の検定時間は50分ですが、次の2次は検定時間が60分で、1次より10分長く設定されています。2次は「数理技能検定」といい、解答を導く過程を記述することについても問われたりします。
1次試験の計算問題とは違い、なかなか手ごわそう……。
Aさんコメント:
1次の計算問題は手応えがありましたが、2次はあまり自信がありません。文章問題も知っている公式にあてはめて、なんとか解いてみたいと思います。
合間合間に書く手を休めながら解答を進めるAさん。さて、2次の結果は……?
1次、2次を解いてみた! その結果は?
では、1次、2次、それぞれの点数を見ていきましょう。結果はこちらです!
1次:29 / 30(合格基準:全問題の70%程度)
2次:17 / 20(合格基準:全問題の60%程度)
採点の結果、Aさんは見事数学検定3級に合格! ブランクがありながら、ほぼ満点での合格です! Aさん、おめでとうございます!
Aさんへ感想を聞いてみたところ、なんだか複雑そうな様子のAさん。
Aさんコメント:
1次の解の公式や2次の問題は、実は昨晩子どもに教えてもらいながら予習をしていました。公式などはすっかり忘れていましたので……。
お子さんと一緒に学習をしたとはいえ、何十年ぶりの数学の問題はかなり新鮮だった様子。とくに、自分が子どものころに教わった解き方と子どもが授業で教わった解き方が違う場合もあったようです。
最新の算数・数学教育のトレンドは? 子どもとどう向き合うべき? 専門家の先生に聞いてみた!
大人になってから、あらためて数学の問題を解いたAさん。振り返ってみての感想は、「中学校以上の数学になると、自分も忘れてしまって教えられない」とのこと。中学生は思春期を迎え、多感な時期。勉強だけでなく、子どもとの接し方にもいろいろと悩む時期ですよね。
そんな気持ちを、数学教育の専門家の先生に投げかけてみました!
本日お話を伺うのは、公益財団法人日本数学検定協会理事で、東京都の東京教師道場の教授で算数・数学担当の先生方の指導・支援をしている小宮 賢治先生です。
本日はどうぞよろしくお願いします!
小宮:
はい。よろしくお願いします。
小学校の算数は「実験」、中学校の数学は「論理」で考える場合もある
──今の中学生はこんなに難しい問題を解いているんですね。そもそも、小学校の算数と中学校の数学って、どのような違いがあるのでしょうか?
小宮:
変わるところもあれば、変わらないところもありますね。たとえば、三角形の内角の和を求めるときに小学校算数は分度器を使って測るなどの活動をすることが一般的です。しかし、中学校数学では論理的な説明にもとづいて180°であると説明をします。
要するに、小学校では実験などの活動をもとに答えを求めるのに対し、中学校では対象を観察し論理的表現をして答えを求めます。いわゆる「証明」ですね。
──「証明」……。難しい単元ですよね。
小宮:
とはいえ、必ず証明で解くということでもありません。証明で解けなくても実験的に考え、答えを出すことも大切です。わからないときは実験したり調べたりと「自分で解決策を考える力」も大事です。論理的な説明を身につける過程を大切にしたいですから。
「論理的ではないからダメ」と考えるのではなく、考えて解いた過程のよさを見いだし認めてあげることが大切なのだと思いますね。
ICT機器の導入でより主体的な学びへ! 変わる算数・数学教育
──算数・数学教育は、大人の私たちが子どもだったころと比べて変わってきているのでしょうか?最新のトレンドなどがあれば教えてください。
小宮:
現在の小中高の算数・数学教育では、ここ数年で急速にICT(情報通信技術)機器が普及し、子どもたちが1人1台のタブレットを使って学習できる環境になってきています。
このICT機器の導入は、新型コロナウイルスの感染が広まるなかで子どもたちの「学び合い」の場を作るのに活躍していますが、実は感染拡大の前から国が進めてきた取り組みでした。シミュレーションなどICT機器を活用して、子どもの視覚・聴覚に訴えることで、学習に対する関心も高まります。良い方法だと思いますね。
国や教育機関が今、めざすのは「主体的・対話的で深い学び」。先生方が子どもの興味・関心を引き出す工夫を凝らした授業を行い、子どもたちが主体的に取り組み、互いに学び合える環境です。
─何のために主体的・対話的で深い学びを大切にしているのでしょうか?
小宮:
これからの世の中は先が見えにくい状況です。そのようななかで生きていくために、知識を身につけそれを使える力、考える力や物事を判断する力、それらを表現する力を学んでいくことが今、強く求められています。
数学の学習は「問題解決学習」が基本で、とても大事な核になっています。最終的には答えを求めるのですが、答えを出す力に加え、考える力、表現する力を大切にしていく必要があります。それを実現できるように、算数・数学教育において、より「主体的・対話的で深い学び」ができる環境が整えられつつあります。
価値観を押しつけず、子どもと向き合うことが大切
──主体的・対話的で深い学び。保護者と子どもの関係にもあてはまるかもしれませんね。ですが中学生は何かと難しい時期でもあります。保護者はどのように接するのが良いでしょうか?
小宮:
中学生という時期はちょうど成長期にあたりますね。心身のバランスが不安定になる時期でもありますが、保護者としての接し方はこれまでどおり、しっかりと向きあっていただきたいと思います。保護者の価値観を押しつけるのではなく、子どもの話をよく聴いて、相談にのるというような姿勢が良いと思います。
──中学生になると途端に勉強が難しくなり、保護者も子どもへ勉強を教えられない……といった声もあります。その場合は、どう対応するのが良いでしょうか?
小宮:
そうですね。算数から数学に変わって負の数が登場したり文字が多く登場したりと変更点はありますが、子どもと一緒に教科書の問題を考えるのも1つだと思います。
ただ、子どもは“一緒に”を嫌がることもありますので、「困っていることはない?」「学校でどんなことを学んでいるの?」「お母さんはこのくらいできたよ」「ここが分からなかったから、教えてくれる?」と、子どもとの会話を心掛けるのが良いのかなと思います。
子どもにしても、自分自身が学習に関心をもてば進んで行動するようになりますので、保護者は子どもが興味・関心を持もてるように支援する姿勢が大切ではないかと思います。
──子どもが数学の学習に興味・関心をもてるようにするということもかんたんではないですよね。
小宮:
たとえば、子どもが数学の学習にあまり興味・関心を示さないときは、「数学の学習でどんなことをしているときが楽しい?」と会話をするだけでも十分だと思います。そうした会話のなかで、子ども自身が自分の興味・関心に気がつく……といったこともありますから。大切なことは、保護者目線の価値観を押しつけることではなく、子ども自身がどうなりしたいのかということに耳を傾けることです。
算数・数学を学ぶ意味とは?
──なるほど。ところで先生は、「数学や理系の知識を使った仕事をするわけではない人が、数学を学ぶ意味」を、どのように考えていらっしゃいますか?
小宮:
計算や知識そのものというよりも、さまざまな「数学的な見方・考え方」が日常生活に役立つと思います。たとえば、図表やグラフを使って論理的に物事を考えたり、着目する視点を決めて事柄の特徴や本質をとらえたり。これらは仕事のなかでもみなさんが使われている力ではないでしょうか。
また「数学的な見方・考え方」の1つに、すでにわかっている事柄との類似性に注目して新しい事柄について考える「類推的な考え方」というものがあります。
たとえば、みなさんが何か生活のなかで問題にぶつかったとき、「これまでに経験したことのなかで、この問題の解決に使える方法はや内容はないかな」と探したことはありませんか?これはまさに類推的な考え方。すでにみなさんが日常的に使っているものなんです。
このように、困ったときに数学的な見方・考え方を問題解決に生かせることは、数学を学ぶよさの1つといえるかもしれませんね。
数学検定を体験し、子どもと同じ目線になったからこそ、わかることもあるのではないでしょうか。日本数学検定協会がお届けするメディアサイト「ひとふり」は、「数学のチカラで日常をちょっと賢く、もっと楽しく」をコンセプトに、算数・数学を使った毎日の暮らしに役立つ情報をお届けしています。ぜひ、ほかの記事もご覧ください!
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