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公認会計士が語る!「家庭の経営」のコツ&子どもへの「金融教育」

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家事、育児、自分の身支度など、家庭内で行う作業はどれも重要です。しかし、重要だからこそ「ちゃんとやらなくちゃ!」と身構えてしまい、必要以上にがんばってしまうのも事実です。

そこで、今回は先輩ママでもある公認会計士の先生に、家庭でのお金の管理方法や子どもへの金融教育についてお話しいただきました。ぜひこの記事を読んで、ふだんの生活に役立ててくださいね!

突然ですが……公認会計士ってどんな人?

本日お話を伺うのは、先輩ママでもあり公認会計士でもある梅木 典子さんです。

本日はどうぞよろしくお願いします!

梅木:

はい。よろしくお願いします。

公認会計士は「会社のお医者さん」

ーーではさっそく取材を始めたいと思います。はじめに、公認会計士ってどんなお仕事でしょうか?

梅木:

公認会計士のイメージを一言で伝えると「会社のお医者さん」ですね。

ーー会社のお医者さん?

梅木:

はい。公認会計士は、おもに上場会社の決算書の監査やアドバイザリー業務(専門家の知見からアドバイスすること)を行います。とくに決算書の監査では、企業の決算書がきちんと作成されているかを細かく確認するんですね。内容に問題があったり疑問があったりする場合は経営者の方に質問します。

そうやって決算書や会社の管理の仕組みを診断したり、適切なアドバイスしたりする様子から、公認会計士は会社のお医者さんと考えるとわかりやすいと思います。

ーー会社のお医者さんと考えると親近感が湧きますね。

梅木:

公認会計士は、医者や弁護士と並ぶ3大国家資格といわれていますが、医者や弁護士と違い個人の方と接することが少なく、なじみのない方もいらっしゃるかと思います。ですが、公認会計士がいなければ投資家が企業の財務状況を正しく知り、判断することができません。正しく判断できないと企業の価値や信用が損なわれてしまいます。

その意味で公認会計士は、企業や社会にとってなくてはならない存在といえますね。

公認会計士からみると、家計簿を日々管理する方は「家庭の経営者」

ーー今回は梅木さんに家計を管理するうえで必要なことや役立つことをお聞きしたいと思います。最初はどんなことから始めれば良いのでしょうか?

梅木:

お金の話もそうですが、まずは「優先順位をつける」ことからはじめてみるのが良いと思います。

ビジネスの世界では、あれもやらなくちゃ、これもやらなくちゃというような状態が訪れます。そんなとき使うのが「人・モノ・お金」の考え方です。家庭にあてはめてみると人は家族にあたりますから、まずは時間やお金といったリソース(資源)をどう使うかについて、考えてみてはどうでしょうか。

たとえば、私の家では洗濯を子どもに任せています。子どもに洗濯を任せることで私の使える時間が増えるからです。そうして使えるリソースを増やし、今抱えている仕事を洗い出してから優先順位をつけています。このとき重要なことは「やらないことを決める」ですね。

ーーやることではなく「やらないことを決める」ですか?

梅木:

はい。そもそも、女性が家庭で担っている役割はものすごく幅が広いと思います。1つめは家庭全体の管理。2つめは子どもの教育関連。3つめは自分の仕事やプライベートの健康管理。そして4つめは介護など実家関連の管理。

最近は配偶者の方と役割分担されているご家庭も多いと思いますが、私の家も含め世間一般では、まだまだ女性が家庭内の仕事の大部分を担っているのではないでしょうか。こんなに幅広い役割を1人でやっているのですから、やることが無限にあります。

ですので、まずはやらないことを決める、次にやることに優先順位をつけて、優先順位の高いものから片づける。それが「家庭の経営者」として活躍する女性のみなさんにとって必要なことではないでしょうか。

家計簿は、1000円単位で記入し、傾向をつかむ

ーー家庭の経営者として重要な「お金の管理」。梅木さん自身は公認会計士や先輩ママとして、どのように管理していますか?

梅木:

じつは私、あまり家計簿を細かくつけていないんです。数字も500円以下を四捨五入して1000円単位で記入していたり、記入項目も食費、交際費、子ども関連、その他というように4つ程度に絞って記入していたり。ですがそれを半年とか1年とか続けるだけでも家計の大きな傾向を把握することは可能ですよ。

ーー意外な発見です。公認会計士という仕事上、細かく家計簿をつけるものだと思っていました。

梅木:

家計簿を何のためにつけるのかというと「見直す」ためですよね。しかし、レシートを細かく分類したり、紙やスマホへの入力に手間取ったりすれば、見直しをする前に家計簿をつけることを止めてしまいます。

じつは公認会計士の監査でも、金額の大きな部分からみています。これは「重要性」という監査の基本用語ですが、基準値を下回る金額の誤りは重要性がないと判断され、修正しません。家計でもどの項目に重要性があるかを判断しながら、今月は食費が多かったから来月は少し減らしてみようとか、交際費を節約できたから自分へのご褒美を買おうとか、家計全体の傾向がどうなのかをみると良いでしょう。

適切な支出かどうかを判断するポイントは「投資なのか浪費なのか」

ーー家計簿を見直すうえで気をつけることは何でしょうか?

梅木:

そうですね。とくに意識していただきたいのは、支出を見直すときに「投資」なのか「浪費」なのかを考えることです。

まず投資と浪費の違いですが、これはひとえに「必要性」があるかないかだと思います。たとえば、ほとんど飲んでいない健康サプリや、月に一度も通っていないスポーツクラブのような、自分にとって必要ではないものやほかで代用できるものは、必要性が低いと判断されるので「浪費」にあたると思います。

一方で勉強はもちろんのこと、旅行に行ったり、美味しいものを食べたりといったリフレッシュや人生を豊かにしてくれるものは「投資」といえるでしょう。また、ママたちは、家事に育児に仕事にと24時間営業しているようなものです。ですので、ママたちの負担を軽減する家事手伝いサービスや惣菜デリバリーなどはある程度は必要な支出です。これらは浪費ではなく、「必要経費」と考えて良いと思います。

ーーそのもので判断するのではなく、それが「必要」かどうかで判断するということですね。その判断をうまく行う方法はありますか?

梅木:

投資と浪費の判断を的確に行うコツとして、1日当たりのコストを計算すると良いでしょう。たとえば、ホームエステの製品が7万円の値段だとして3年間毎日使うと仮定します。3年間は1095日ですから、1日あたりのコストが63円と計算できます。

7万円のモノを買うのには勇気がいりますが、3年間使い続けるとしたら1日あたり約60円のコストでしかないのです。それなら買ってみようと考える人も多いのではないでしょうか。じつは、この考え方は、減価償却がもとになっています。毎日使わない、つまりそれほど必要性が高くない場合は一日当たりのコストが高くなり、浪費だということになります。

――物事の要素を定量化すると判断しやすくなるというのは、算数・数学とのつながりが感じられますね。

梅木:

単純な金額の比較ではなく、1回あたりの使用コストを考えることが大切ですね。

つまり、何かを買うときは「必要性」と「使用頻度」を考えると良いと思います。このように考えると無駄遣いや衝動買いがめっきり減ると思いますね。

子どもを「金銭感覚」が適切な大人に育てるための教育とは

ーー私たちの生活に欠かせない「お金」。子どもにお金を使うときの感覚を養ってもらうために、ママ・パパはどんなことができるのでしょうか?

梅木:

お金は金額なので、やはり数だと思います。そうした数の感覚やお金の感覚を養って、物を買うかどうか、お金をどう使うかを判断していくには、算数の力がベースになるでしょうね。ただ、生きていくためにお金は必要ですが、小さいうちからお金のことばかりを伝えるのは良くないと思います。まずは一緒に買い物に行き、お金の使い方を教えるのが良いのではないでしょうか。

1つ、実体験をもとに例を挙げます。

私の息子が保育園のとき、駄菓子屋さんに行って「このお店にあるもので好きなものを買っていいよ」といって、彼に200円を渡してお買い物をさせたことがありました。そうするとすごく真剣に考えるんですよね。でも計算はかなり難しい。そのころは消費税が3%だったので、10円のお菓子を4個買うなら1個あたりの消費税は切り捨てとなって40円なんですけど、40円のものを1個買うと41円になるんです。

「もう1個買ったら消費税で200円をオーバーしてしまうから、これは諦めてこっちにしよう」というようにとてもくふうして、絶対に予算を超えないようにお買い物をしていました。また、駄菓子屋さんでのお買い物で、繰り上がりの計算が自然に身に着きました(笑)

――お買い物の場面で、金銭感覚が磨かれていくんですね。算数・数学的な考え方で課題を解決している姿がすばらしいです。

梅木:

駄菓子の購入など、子どもの好きなことについて、一定の裁量をあげて自ら考えて決める機会を与えることが重要なんだと思います。

私たち大人は、子どもにこうすべきといってしまいますが、そればかりでは自分の考えをもたず、いわれたことをするいわゆる「いい子」になってしまいます。もちろん、親のいうことを聞くのはすばらしいと思いますが、その子が社会に出たときに自分の考えを話せない大人になりかねません。ですので、小さいうちから「自分はこう考えている、なぜなら……」と考えられるようにサポートすることで、子どもの将来につながると思います。

ーー2022年度から高校で「金融教育」が始まります。このような教育の変化について、梅木さんはどのように考えていますか?

梅木:

特殊なケースを除き、お金を使わずに生きている人はいないのに、これまでお金について学ぶ機会がなかったこと、そのこと自体に私は疑問をもっていました。子どものころにお金について学ぶ機会がないと、大人になってお金について考えなさいといわれても、困ってしまうケースは多いと思います。

たとえば大学生、社会人になって一人暮らしをするような場合。金銭感覚のないなか、1か月でどれくらいの食費がかかるのか、水道光熱費はどれくらいか。失敗をせずにお金を管理するのは難しいと思います。それに、貯金の仕方を知らなければ、結婚を考えたときに蓄えがないといった事態になることも考えられます。そういうことを考えると学校で金融教育を実施することは、すごく良いことだと思いますね。

今回は、公認会計士でもあり先輩ママでもある梅木さんに、家庭の経営者としてのお金の管理方法や、子どもへの金融教育についてお話しいただきました。ぜひみなさんのご家庭でも、金融教育を始めてみてはいかがでしょうか。


/media/ひとふり編集部

ひとふり編集部

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