算数の学びにもつながる「ピタゴラス」シリーズ 遊びながら空間認識力を育む!
日増しに暖かくなり、ようやく春本番の訪れを感じる季節となりました。外遊びが楽しい時季ですが、おうちでのリラックスタイムには、家族でいっしょに遊びながら、図形を身近に感じてみませんか。子どもはもちろんおとなも夢中になり、遊びをとおして空間認識力が育まれ、算数の学習にも役立つと話題の「ピタゴラス」シリーズを紹介します。
今回は、「ピタゴラス」開発のきっかけや商品化までの経緯、遊び方などについて、「ピタゴラス」をはじめとした商品の企画を担当しているピープル株式会社 企画部の花牟禮(はなむれ)瑠実子さんに話を伺いました。
数学の先生のアイデアで生まれた「ピタゴラス」シリーズ

「ピタゴラス」シリーズを開発されたきっかけを教えてください。
花牟禮:
「ピタゴラス」シリーズは1992年に発売された商品です。当時、中学校で数学を教えていらっしゃった久道登先生という方が、子どもたちにわかりやすく図形を教えるために、磁石の付いた教具を発明されたそうです。「このアイデアは中学生に限らず、広く子どもたちに普及できるのではないか」と久道先生がお考えになり、ピープルに手紙を送ってくださったことから、乳幼児向けの玩具化にいたりました。
数学の先生からの提案が開発につながったのですね。実際に商品化するまで、どのくらいの期間がかかりましたか。
花牟禮:
当時の開発担当者から、開発には2年ほどかかったと聞いています。薄いプラスチックの板に磁石を入れることをどう実現するのかを考えるのがたいへんだったそうです。また、もとは中学校向けの教具だったので、幼児向けにしたときにどのような仕様が良いかを固めるのにかなり時間がかかったようです。当時、2歳から小学校低学年まで 各年代のモニター宅を何軒も訪問して実際に子どもたちに遊んでもらい、調査されたとのことです。
技術面でも仕様面でも課題があったわけですね。
花牟禮:
そうですね。たとえば、パーツの四角形の辺どうしをくっつけるときに、裏返しても反発しないようになっています。ここには、「異方性磁石」という磁石が2つついているのですが、これが当時高価で、手配する製作会社を探すことにとても苦労したと聞いています。
どうして反発しない磁石にしたのでしょうか。
花牟禮:
子どもたちがおもちゃとして遊ぶときにストレスがないようにするために、「磁石が反発しない」ということは、かなり重要な要素ではないかと思います。
どのパーツをくっつけて組み立ててもだいじょうぶということですね。安全性も考慮されているのでしょうか。
花牟禮:
磁石を使ったおもちゃには、万が一、誤飲してしまうと死亡事故につながるほど重大なリスクがあります。磁石が飛び出ないくふうというのはかなり大事にしています。とくに磁石内蔵パーツは、磁石の飛び出しや誤飲を防ぐため、ダブル安全構造を採用し、プラスチックパーツを接着または超音波で溶着し、さらにハトメ(布や板などにあけた穴のふちを補強する金具)やネジを併用するくふうをしています。おもちゃには安全基準があり、一般社団法人 日本玩具協会が制定しているSTマークというものがあるのですが、それを取得するための基準をクリアしています。
安心して夢中になって遊べるわけですね。実際に子どもが遊んで、そのときの反応などで改善したことはありますか。
花牟禮:
もともと久道先生がつくっていた教具は、1辺が100mmの四角形だったそうです。今の「ピタゴラス」は、1辺が75mmになっています。子どもの小さい手で触っても扱いやすいサイズに変更しました。対象年齢1歳ごろからの商品もあるのですが、小さい手で、一生懸命開いて、つかんで、離して、遊んでいます。
かわいいですね。そういえば、「ピタゴラス」の名前の由来は何ですか?
花牟禮:
「数学の先生が発明された数学的な要素があるおもちゃ」ということで、歴史上の数学者の名前をつけたというのが理由の1つです。あとは、当時テレビCMで商品のPRをしており、「磁石で『ピタッ』ゴラス」というフレーズが耳なじみがよく、印象的なフレーズになり得るということで「ピタゴラス」という名前になったと聞いています。
なるほど! 磁石の「ピタッ」と数学者の「ピタゴラス」の名前をかけたわけですね。
遊びながら「ひらめき」や「考える力」が育つ
現在、「ピタゴラス」シリーズは何種類展開されているのでしょうか。
花牟禮:
9から10セットくらいが一般向けに販売されている商品で、ほかに保育園・幼稚園向けの大容量のセットも展開しています。今は、「BASIC」と「BALL COASTER」という大きく2つのシリーズがあります。以前は「SCHOOL」というシリーズもありました。
「BASIC」と「BALL COASTER」の違いはなんでしょうか。
花牟禮:
「BASIC」は、三角形、四角形といった基本の図形パーツをベースにしています。そのほかに、子どもたちのひらめきを刺激するようなパーツも、それぞれのセットに合わせて入っています。動物のセットや、おうちがつくれるものに特化したセットなどが取りそろえられています。
「BALL COASTER」は、2021年に発売した比較的新しい商品です。ボールを転がすなどして、プログラミング的な論理的思考力を育めるということで、お客さまからご好評をいただいています。ボールが転がるコースを1歳半ごろから自分でつくって、壊して、またつくって……ということが、かんたんにできるというものです。

いろいろな形やパーツがあるのですね。
花牟禮:
もっとも基本になっているのは、発売当初からあった図形の形で、「正方形」「直角二等辺三角形」「正三角形」などです。その当時は右脳がブームで、「ひらめき」や「ひらめきが育つ」というキーワードが注目を集めていたようです。「ピタゴラス」も「想像する」とか「ひらめく」というところに主眼をおいたおもちゃでしたので、子どもたちのひらめきが刺激されるような形として、三角形に穴をあけて、使い方によって窓になったり、目玉になったりするようにくふうされているパーツがあったりします。
まずイマジネーションの「想像」がふくらむものとして基本的な図形のパーツがあり、さらにクリエイティビティの「創造」、いわゆる「これ、つくりたいな」という気持ちをかきたてるものとしてもう少し具体的なパーツをつくっているので、2種類の「想像」「創造」ができるおもちゃになっています。
こうしたパーツのアイデアはどのように考えるのでしょうか。
花牟禮:
実際に、「ピタゴラス」を使ってくださるユーザからの声や反応を参考にしています。たとえば、Instagram上で「ピタゴラス」で遊んでいるようすを発信してくださる方をアンバサダーに任命しています。そのなかで、自分でコースターをつくってビー玉を転がしている子どもがいました。そこからヒントを得て、モニター調査を重ねながら、1歳半からかんたんにくっつけてコースがつくれるパーツと、誤飲しないように安心して使える大きなボールのコースターが完成しました。
子どもたちの遊びが開発のヒントになったりするのですね。動物のセットも楽しそうですね。
花牟禮:
動物のセットは低年齢向けです。四角形だけ入っていても、どうやって何をつくろうかととまどうことがあるのですが、動物がいたら「お水を飲ませてやりたいから、ここに水を置こう」とか「お風呂に入れてやりたいから箱をつくろう」とか、保護者も子どもも、動物がいることでやりたいことが芽生える事例があります。
パーツが、子どもの「想像」「創造」のきっかけにもなるわけですね。同じ形でも表面が不透明なパーツと透明なパーツがあるのですか。
花牟禮:
発売当初は表面が不透明なもので展開していました。「磁石でくっつく、反発しない不思議」を楽しんでもらいたいということと、不透明のほうがカラーもはっきりしていて形も認識しやすいのでおもしろいというところがあります。最近は透明なタイプも増えてきていて、これは逆に中が見えることで構造がわかりやすいとか、「BALL COASTER」の商品ですと、ボールが転がる経路がわかるということで、透明なタイプをパーツとしてセレクトしたりしています。

それぞれのおすすめの選び方などはありますか。
花牟禮:
いろいろな遊び方ができるということが「ピタゴラス」の特長なので、「うちの子はこれが好きそうだな」とか、パッと見て直観で選んでもらえればと思います。たとえば、「動物が好きだから動物セットにしよう」とか「おうちをつくるのが好きだからハウスのセットにしてみよう」とかですね。
学校や幼稚園・保育園などでも使われているのですか。
花牟禮:
はい。ブロックの1つとして取り入れて使っていただいていて、いくつか園を見学させていただいたり、お話を伺ったりしたこともあります。「ピタゴラス」単体での遊びもすごく熱中しているのですが、園にある小さい恐竜のフィギュアやミニカーなどと組み合わせて、お友達といっしょに舞台をつくって遊んでいるようすは、園ならではの特徴かと思います。子どもたちの「想像」「創造」の世界が展開されているようすが見られます。
子どもたちが実際に遊ぶようすを見学していて感じられることはありますか。
花牟禮:
おもに保護者や保育士のみなさまの要望から、各商品には遊び方のガイド(説明書)を入れています。でも、子どもたちに「ピタゴラス」を渡すと、ガイドを見なくても遊びを見つけ出してくれるのだなというのは、見学していていつも思いますね。「こんなおもしろい使い方があるんだ」とか「こんな世界が広がるんだ」という発見に出合います。また、まわりの子どもに刺激されて「じゃあ、これやってみようかな」と子どもたちが自ら遊び方を発見するなど、横のつながりもあるのだと思います。
子どもは頭が柔らかいですね。「ピタゴラス」で遊んだ子どもや保護者の方の感想や意見を聞くことはありますか。
花牟禮:
はい。私たちは、「想像性」「創造性」という、つくることが楽しいおもちゃとして発売していたのですが、お客さまからは、「算数に役立ちました」とか、「空間認識力が育ちそうだから購入してみました」といったお声をいただくことがあります。久道先生の考えや思いにある数学的な要素や価値が、買っていただいたお客さまにも伝わっているのだと思います。
また別の角度になりますが、コロナ禍でおうちにいないといけない時期などに、「子どもが熱中して、1人でも集中して遊んでくれる商品としてすごく重宝しました」というのは、保護者の方にお会いするとたびたびお聞きします。学習につながっている面と、子どもたちがとても夢中になって保護者が助かるという面と、両面あると思います。
夢中になって遊んだ先で学びを得られることがある
このピタゴラスシリーズは、世界でも販売されているのですか。
花牟禮:
これまでも欧米を中心に「Magna-Tiles®」という名称で、アメリカの販売代理店が展開してくださって広がってきました。一方で、これからは自社でもとくにアジアに向けて展開を進めています。たとえば、幼稚園や書店などで、「SCHOOL」シリーズ「小学生ピタゴラス」のドリルをつけたものを、言語を変えて販売しています。
「小学生ピタゴラス」を2019年にリニューアルしたときには、公益財団法人 日本数学検定協会も開発に協力したと伺いました。
花牟禮:
はい。もともとはパーツだけが学年別に入っていたセットだったのですが、「それをどうやって学習に結びつけていったら良いのか」など、保護者の方のお声や悩みも聞こえてきました。「遊ぶ」というところが主軸ではある商品なのですが、それを学習に結びつけるための橋渡しとして、問題集やドリルみたいなものを付属したほうが良いのではないかという話になりました。それで、専門的な知見のある方たちにご協力をお願いしようということで、日本数学検定協会さまにお願いをしました。

お客さまの声からリニューアルをしたわけですね。ドリルをつけて反応はありましたか。
花牟禮:
立体や図形は、数や計算などと違い、やはりなかなか口で伝えるのが難しく教えにくい単元で、保護者も苦手意識をもっている方が結構いらっしゃいます。そんなときに楽しく取り組めるものとして、すごく役に立ったと言ってくださる方が多かったです。一方で、「さらにもっと難しいものが欲しい」とか「かんたんに解けてしまった」などの声もあり、求める難易度がどんどん高くなるということは、商品化してみて気がついたところです。
こういった図形を使ったおもちゃや知育玩具は、他社でも発売されていると思いますが、「ピタゴラス」がとくに優れているところや差別化されたところはありますか。
花牟禮:
私たちは「学習のプロ」というよりは「遊びのプロ」なので、あくまで「遊び」に軸をおいています。「いかに子どもたちが楽しく遊んでくれるか」とか「夢中になって遊んでくれた先に学習につながることがある」というところで商品を開発していて、子どもたちの興味・関心は、モニター調査などでの子どもの観察で必ず検証してから商品化しています。そこがかなり強みではないかなと思っています。
まずは夢中で遊んでもらって、その先に学びにつながることをめざしているんですね。花牟禮さん、ありがとうございました!
今回は「ピタゴラス」シリーズの開発のきっかけや商品化までの経緯、遊び方などについて、話を伺いました。次回は、幼児期の遊びの大切さや遊びからつながる学びなどについてご紹介します。お楽しみに!
ピタゴラスシリーズ商品URL:https://www.people-kk.co.jp/toys/pythagoras/lineup.html

記事を書いた人
篠崎 菜穂子(しのざき なおこ)
フリーアナウンサー/数学コミュニケーター/数学シニアインストラクター。東京都生まれ。日本大学理工学部数学科卒業。横浜国立大学大学院先進実践学環社会データサイエンス修士課程修了(学術)。中学高校数学教員免許、幼児さんすうインストラクター、算数シニアインストラクターなど、多数の資格を取得。数学関係のアナウンサーの仕事の他、数学講座やワークショップ、執筆など幅広く活動している。著書に『はたらく数学 25 の「仕事」でわかる、数学の本当の使われ方』(日本実業出版社)など。
篠崎菜穂子の数学情報サイト 「How to enjoy math」
サイトURL:https://www.enjoy-math.com/